金の糸
割れた器,手の折れた埴輪や土偶などが,うちには山ほどあります。気に入っているものほど,使用頻度が高いからかついうっかり…。気に入っているので,捨てることもできず…。「金継ぎ」をはじめてから,そういったものをある程度,復元させられるようになったので,今では,突然のがっしゃんには動じないどころか,「なるほど,そうきましたか」と,どんな割れかたをするのか,どんな模様で直そうか,を瞬時に想像するようになりました。まだまだ腕はあれですが。
「金継ぎ」とは,破損した器を漆で修復し,金や銀で装飾する日本古来の技法です。
破損部を漆で修復する,というのは縄文土器にも痕跡があるそうです。縄文からとは,相当長い歴史があります。室町時代以降に,茶道精神の普及により,金継ぎに芸術的価値がみいだされるようになったとのことです。
器によっては金継ぎをしたことで,より器の良さがひきたつな,と感じるものすらあります。破損を隠すというよりは,破損もそのまま美しくみせていく,完全ではないものに美をみいだしていく,という感じでしょうか。
少し前になりますが,「金の糸」という映画をみました。監督は,ラナ・ゴゴベリゼ。ジョージアを代表する女性の映画監督のひとり,親子三代で映画監督です。この作品は,ゴゴベリゼ監督が,日本の金継ぎに着想を得て描いた,過去との和解の物語です。昨年91歳で発表されました。
“日本人が数世紀も前に壊れた器を金で継ぎあわせるように
金の糸で過去を継ぎ合わせるならば,
過去は,
そのもっとも痛ましいものでさえ,
財産になるでしょう“
金継ぎに着想を得たという監督のこのことばが気になり,映画をみに行ったのでした。
監督自身もジョージアの激動の時代を生き,その壮絶な人生を投影された作品でもあるといわれています。その一方で,映像がうっとりするようなとても美しい作品でした。首都トビリシ旧市街の石畳から一歩中に入ったところにある,中庭のある古い木造住宅が舞台。機会がありましたら,ぜひご覧ください。
この映画をみてから,自分の施した不格好な金継ぎも,そう悪くないな,と思っています。
リサーフが,リサーフでの出会いが,ご利用されるみなさんとみなさんの大切なものをつなぐ「金継ぎ」となれましたら幸いです。
K.M.